〈コロナ対策〉 漫画「AKIRA」が新型コロナを予言!?ネット民が震える怖い噂の種明かし

◎DIAMOND…より転載



https://diamond.jp/articles/-/230764


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●漫画「AKIRA」が新型コロナを予言!?ネット民が震える怖い噂の種明かし



SNSで大きな話題になっている「AKIRAの予言」――。80年代の漫画「AKIRA」には、東京五輪が2020年に開催されることはもちろん、伝染病が蔓延することや、日本がWHOから問題視されることなど、今の日本の状況が描かれているとしか思えない描写がいくつもあるのだ。なぜ「AKIRA」は未来を当てられたのか?その理由は、意外にも簡単に見つけられる。(ノンフィクションライター 窪田順生)



◆80年代の漫画が

今の東京を「予言」した!?


「AKIRA」の“予言”がSNSで大きな話題になっている。


「AKIRA」とは大友克洋氏が1982年から「週刊ヤングマガジン」に連載していたSF漫画で、88年にはアニメ映画が公開。「ジャパニメーション」の代名詞として海外でも高い評価を受け、誕生から38年経過した今も世界中で多くのファンに愛されている作品だ。


 どれくらいこの「AKIRA」がスゴいのかというのは、日本でもおなじみのスティーブン・スピルバーグ監督が「こんな作品を作りたかった」などと絶賛し、グラミー賞常連の世界的ミュージシャン、カニエ・ウェストが「この映画は俺のクリエイティビティにもっとも影響を与えている」と発言していることからもわかっていただけるのではないか。


 さて、そこで「AKIRA」のことをご存じのない方が次に気になるのが、「予言ってナニ?」ということだろう。この日本が誇るSF作品が、いったい何を言い当てて、どんな未来を予見しているのか。そのあたりを正確に理解していただくためには、まずはこの「AKIRA」がどんな物語なのかということを知っていただく必要がある。


 舞台は、2019年の「ネオ東京」。ネオって、と半笑いになる人たちの気持ちもわかるが、これにはちゃんと理由があって、作中で東京は原型をとどめないほどの壊滅的な被害に遭って新しく生まれ変わっているからだ。


 1982年、東京で新型爆弾が炸裂し、これが引き金となって第三次世界大戦が勃発。凄まじい爆発で巨大なクレーターができ、大半が水没してしまった東京は戦争が終わると、「ネオ東京」として復興の道を歩み出した。そして2020年の東京オリンピックを控えたこの街で、「AKIRA」という凄まじい超能力を持つ子どもを巡る争いが繰り広げられていくのだ。そう、この作品はなんと30年以上前に「TOKYO2020」が開催されることを予見していたのだ。


 この他にも作品内の描写が現実とピタリと重なっている。


 例えば、「AKIRA」の第2巻の中で、その東京オリンピックの競技場の建設現場が描かれているのだが、そこには「開催まであと413日」という看板とともに、「中止だ 中止」という落書きがなされている。


「TOKYO2020」が開幕する今年7月24日の413日前は2019年6月7日。この月は、五輪招致時の「裏金疑惑」をめぐってフランス当局から捜査対象となっていた、竹田恒和・JOC会長(当時)が任期満了で退任している。これを受けて、五輪反対派からは、「グレーなままでまんまと逃げおおせた」「こんな黒いオリンピックは中止にすべき!」という批判が持ち上がっていたのだ。



◆新型コロナ蔓延を

彷彿とさせるシーンも


 先ほどの建設現場の描写は、大友氏が監督を務めたアニメ映画版の中にもあるのだが、ひとつ違うのは、カウントダウンの日数だ。看板には「開催迄あと147日」とあり、こちらにも「中止だ中止」に加えて「紛砕」という落書きがなされている。


 では、現実世界で五輪開催の147日前はいつになるのかというと、2月28日。ダイヤモンド・プリンセス号で「陽性」と確認された人々が700人を突破し、WHOが世界的に大流行する危険度を、最高レベルの「非常に高い」に引き上げた日なのだ。この2月28日を境に、国内外でオリンピックなんてやっている場合じゃないんじゃないのという機運がさらに盛り上がってきているのは、ご存じの通りだ。


 例えば、京都大学では2月29日に学生らがこの看板を再現。アニメと同様に「五輪反対」のビラも多数貼られたこの写真はSNSでも大きな話題となった。そして、この週末にはトイレットペーパーを求めて長蛇の列ができるなど、オイルショック時のようなパニックが起きた。そんな日本社会の混乱ぶりを受けて、3月4日には、BBCやブルームバーグなど海外メディアは、橋本聖子五輪相の談話をチョキッと切り取って、「年内延期の可能性も」と報じ始めているのだ。


「中止だ中止」というムードが高まっているのは、IOCのバッハ会長が「自信を持って東京大会に向けて準備を続けてほしい」という異例の声明を出したことからもうかがえる。これは裏を返せば、かなりの国から「あと4カ月でホントに日本は安全になるの?」という不安の声が聞こえてきているということでもあるからだ。


 そこに加えて、SNSで話題になっているのは、作品内の「WHO」に関する記述だ。「AKIRA」の第3巻の巻末に収められた次巻の予告ページの中で、劇中で発行されていると思しき新聞がデザインに組み込まれており、そこにこんな見出しの記事があるのだ。


「WHO、伝染病対策を非難」


 この背景を説明すると、3巻の最後で「ネオ東京」はAKIRAの超能力によって再び壊滅的な被害を受けてしまうのである。高層ビルなどが瓦礫の山となって、無政府状態で「北斗の拳」のような世界となってしまう。そこで赤痢やペストなどの伝染病が流行してWHOが問題視している――というような記事だということが伺えるのだ。


 3月2日、WHOのテドロス事務局長が、ほとんどの国で新型コロナウィルスの感染を封じ込められているのに対して、韓国、イタリア、イランと並んで日本を「最も懸念する国」だと世界のメディアに説明した。つまり、「非難」こそしていないものの、明らかにウィルスの封じ込めに失敗している日本の「伝染病対策」にかなり不安を抱いていると表明したということで、「AKIRA」の新聞記事とビミョーに重なっている。


 このような数々の予言の的中ぶりから、SNSでは「当たりすぎて怖い」「背筋が冷たくなってきた」という声が上がっているのだ。ただ、夢を壊すようで心苦しいが、この予言のタネ明かしは簡単にできてしまう。



◆「AKIRA」に描かれているのは

昭和の時代の日本


 個人的なことを言わせていただくと、筆者は「AKIRA」の30年来のファンで、今も本棚には子どもの時に買った全巻が並んでいる。生まれてはじめて1万円近い金を出して映画のビデオカセットを買ったのも「劇場版AKIRA」だった。


 そういう「AKIRA」をこよなく愛する人間からすれば、作品内で描かれているネオ東京の姿と、令和日本の姿が重なって見えるのはなんら驚くことではない。むしろ、ソックリになるのは当たり前なのだ。


 キーワードはズバリ、「昭和」だ。


 ファンならば常識だが、「AKIRA」は昭和の世界観で描かれたSFだ。2019年という設定ながら、登場するのは高度経済成長期に多くあった長屋のような日本家屋や、ヘルメットにゲバ棒を持った学生運動のようなデモ隊、多くの爆破事件を起こした新左翼を連想させる反政府ゲリラ、割烹着姿の女性…などなど「ザ・昭和」という描写であふれている理由を大友氏は、NHKの番組で以下のように述べている。


《漫画の『AKIRA』は、自分の中では、世界観として「昭和の自分の記録」といいますか。戦争があって、敗戦をして。政治や国際的ないろいろな動きがあり、安保反対運動があり、そして東京オリンピックがあり、万博があり。僕にとって東京というのは昭和のイメージがものすごく大きいんですよね》(NHKオンライン 2018年12月14日)


「AKIRA=昭和の世界観」と考えると「予言」の正体もわかってくる。


 例えば、オリンピック。今でこそ日本人繁栄の象徴のように思われている1964年の東京オリンピックだが、実はそれは権力者が歴史を上書きするのと同じで、当時はそんなイメージはなかった。むしろ、開催直前までそれほど盛り上がらず、復興などもっと他に金を使うべきだとか、戦時中のような過度な国威発揚につながるなんて反対の声があった。


 1954年生まれの大友氏は、そんなカオスな五輪ムードを実体験として知っている。それが「AKIRA」作中の「中止だ中止」に現れている、と考えれば特に驚くような話ではないのだ。


「伝染病」も然りだ。1964年1月、「清潔なオリンピック」を掲げた厚生省は予防接種などの伝染病対策を打ち出した。が、6月には集団赤痢が相次いで発生。開催直前の8月には外国人がコレラで死亡もしている。まさにWHOに非難されてもおかしくない体たらくだったのだ。そこに加えて、問題の描写がおさめられた「AKIRA」の第3巻が出版された1986年8月、現実の昭和の日本でも今回の新型コロナにも通じる社会パニックが起きている。


 カンのいい方はお分かりだろう。エイズだ。



◆昭和の時代、エイズパニックで

風評やデマが飛び交った


 当時、エイズにはさまざまな憶測、風評、デマが飛び交っていた。有名なのは、1987年の神戸のエイズパニックだ。国内で初めて女性のエイズ患者が出て、どういう経路で感染をしたのかわからないということから、神戸市に相談が殺到。不安からノイローゼになって自殺する人まであらわれるなど大混乱を招いたのだ。


 優れたフィクションほど現実に基づいている。そのような意味では、「伝染病パニック」のさなかにつくられた「AKIRA」に「WHO、感染対策を非難」という記述があるのは極めて自然な話なのだ。


 つまり、「AKIRAの予言」の正体とは、60〜80年代の日本が抱えていた様々な社会問題をSF的にリメイクしたものなのである。


 では、なぜ昭和の社会問題を描いた「AKIRA」が、令和の現代に寸分の狂いもなく当てはまるのか?それは、我々の社会の基本的な構造は、令和になった今も「昭和」からそれほど大きく変わっていないからだ。


 そのあたりこそ「AKIRA」を見ればわかる。例えば、物語のしょっぱな、本編の主人公である暴走族のリーダー、金田たちが職業訓練校で一列にならばされ、教師からお説教を受ける。そこで、アントニオ猪木さんをイメージしたであろう、「アゴ」と呼ばれる体育教師が現れ、「指導ォ!」と一発ずつ殴られていくというシーンがある。40~50代の人ならば一度は経験がある、昭和の教師の「愛のムチ」だ。


 では、これが令和日本で行われていないかというとそんなことはない。体罰教師や部活の暴力指導は今も定期的に報じられているし、子供の虐待数も右肩上がり。大人の言うことを聞かない悪い子は、ブン殴ってよしというのは、いまだに日本式教育のスタンダードとなっている。


 つまり、「2019年の日本社会」と、大友氏が「昭和」をベースにして描いた「2019年のネオ東京」は、鏡に写したように瓜二つなのだ。



◆東京は昭和の時代から

何も変われていない


 これが「予言」でないことは言うまでもない。ならば、この現象を合理的に説明できる答えはひとつしかない。大友氏が描いた「昭和の東京」から「令和の日本」は何も変わっていないということだ。


 我々は、ことあるごとに時代は変わった、なんちゃら2.0だと叫ぶが、同じ人間が動かしている以上、そこまで世の中は大きく変わらない。それは、日本経済を見ても明らかだ。バブルが崩壊しても日本の基本的な産業構造はたいして変わっておらず、気がつけば先進国の中で最低レベルの労働生産性と賃金で、おまけにG7の中で唯一経済成長をしていない国となった。


 少子高齢化だ、人手不足だ、という議論もかれこれ30年も続けている。それを示す描写も「AKIRA」にある。政府内でAKIRA対策予算の議論が紛糾する中で、おじいちゃん議員が、「だから何べんも云っとるようにィ その金を福祉に廻せば良かったんじゃ」と叫ぶと、「うるせェ ジジイ」というヤジが飛んでいる。


 今の国会のしょうもないヤジ合戦、人手不足、高齢化社会にまつわる議論のエンドレスループは、大友氏が描いた「昭和の時代」からずっと繰り返されてきたのである。


 SNSでは「AKIRA」の予言が当たりすぎて怖いという人も少なくない。


 確かに、「AKIRA」で描かれるネオ東京のような破滅が、現実に起きる可能性もある。ご存じのように、東京は、首都直下型地震という大きなリスクを抱えている。政府の地震調査委員会によれば、これは今後30年以内に70%の確率で起きる。ということは、明日起きてもおかしくないということでもある。


 新型コロナウィルスで経済活動が麻痺している中で、もし首都直下型地震が起きたら…。想定でも2万3000人の死者が出る大災害である。昨年起きたような豪雨や水害が重なれば、首都機能は完全に麻痺してしまう。「AKIRA」のネオ東京同様に、オリンピックなどやっている場合ではなくなる。


 そんな未来は確かに怖い。しかし、個人的にもっと怖いのは、38年も経過しているのにさまざまな面で「昭和」を引きずっている、日本というシステムだ。


 ネタバレになるが、「AKIRA」のラストは、主人公・金田たちが「大東京帝国AKIRA」という独立国家を築き、瓦礫の山の中でアメリカの手も借りずに自分たちだけで東京の再建を目指す、というものだ。


 マンガチックで荒唐無稽だと笑うかもしれないが、もしかしたらこれくらい荒唐無稽なことをやらないと、日本という国は変わることができないのかもしれない。




 それだけではない。なんと「AKIRA」には現在、日本のみならず世界に混乱を引き起こしている新型コロナウィルス騒動を連想させるような描写も確認できるのだ。