〈がん〉私の経験が悩める人の行く道を照らす灯になれば (熊野安芸子さん 子宮内膜間質肉腫)

◎ガンの辞典…より転載


http://www.gan-jiten.com/more/04/post_122.html



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●私の経験が悩める人の行く道を照らす灯になれば

(熊野安芸子さん 子宮内膜間質肉腫)


☆ガン体験者との対談


2020年2月 大阪市北区のアピアランスケア協会にて


・熊野安芸子さん(右)と編集長




「美と健康の仕事に携わってきた私が、なぜガンにならなければいけないの!?」


当初はガンをまったく受け入れることができなかった・・・

6クールの抗ガン剤で毛髪が抜け落ちた・・・

何も食べたくなかった・・・


熊野さんはそんな自身の経験を基に、昨年より「一般社団法人 アピアランスケア協会」を設立して活動をされています。


《病気やケガで外見を損傷した方の「一歩外に出る勇気」をサポートする》が協会のミッションです。



熊野さん(右)とアピアランスケア協会代表理事の塩井真弓美さん




◆緊急入院!◆


小澤

昨年の「がん治っちゃったよ!全員集合!大阪」では、スタッフとしてお手伝い頂きありがとうございました。今日は熊野さんの体験談とアピアランスケア協会についてお話を伺いに参りました。早速ですが、発病からの経緯をお聞かせください。


熊野さん

2016年の11月25日、緊急入院しました。当時、私はエステサロンを大阪と東京で経営していて、2ヶ所を行き来していました。東京で仕事をしているときに大量の生理出血がありました。47歳でそろそろ閉経という時期でしたから、不安定になっているのかな?とも思いましたが、念のため婦人科の開業医を受診しました。医者は診るなり、「これはアカン!」


すぐさま地域の基幹病院に電話してくださり、「今日診てくれるから、今から行きなさい!」と促されました。午後のスケジュールを取りやめ、自分で運転して病院に向かいました。


小澤

尋常ではないと判断されたのですね。


熊野さん

病院では内診するなりカーテンをパッと開けられ、「子どもいる?(産みたいか?)」と聞かれました。47歳ですし(笑)「いりませんけど」と答えたら、「子宮取らなアカンで」と、今にも手術に執りかからんばかりの勢いで言われました。それくらい出血量がひどかったようで、とても帰宅できる状態ではなかった。そのまま緊急入院です。


小澤

そんなに出血していてよく仕事されていましたね。


熊野さん

ガンの疑いで細胞の病理検査をしましたが、3日後に出た結果は良性でした。


それでも出血が大量なので、なんとか調整して11月30日に手術をすることになりました。事前の説明では、手術は3時間ほどで終わる見込みでしたが、実際には8時間を要しました。気がつくとベッドの横に執刀した女医さんがいて、「今まで見た中で(ガン細胞が)いちばん怖い顔してたわ」と言い、反対側にいた母と妹が泣きじゃくりながら「姉ちゃん、がんばったな~」と、ドラマを見ているようでした。


小澤

大手術でしたね。


熊野さん

夜中に一人取り残されてからは、何がどうなっているのやら、何をどこから考えていいのやら・・・。頼りは看護師さんだけで、その夜は、ナースコールを何度も押し、やっとの思いで朝を迎えました。


小澤

ガンとは思わずに手術を受け、目を覚ますといきなり「ガン細胞の顔つきが悪い(悪性度が高い)」と言われ、訳も分らず生きた心地がしなかった。


熊野さん

死ぬんだと思いました。


小澤

突然、死を突きつけられた。


熊野さん

不安で不安でしかたなかった。だからその夜は、何度も何度もナースコールで看護師さんを呼びました。なんとか不安の闇から引き上げてもらいたかったのだと思います。


朝になると、朝食が出されました。重湯でした。「これ食べるの!?」と驚き、食欲もなかったのですが、ひとくち、ふたくちと口に運びました。無理にでも食べないと死んじゃうと思って。


小澤

生命の本能ですね。


熊野さん

でも手術した後の予後が悪かったのです。ずっと微熱が続き、なかなか下がりませんでした。食欲がでない。毎日検査して、朝晩2回抗生物質を入れた点滴。2週間経っても、一向に良くならない。顔つきの悪いガンと告げられ、食べられずに痩せ細っていく日々・・・悪いことしか考えませんよね。


小澤

感染症でも起こしていたのですか?


熊野さん

3週間経ってわかったのですが、患部に膿が溜まっていました。薬を変えたりして適切な処置をすることで、回復していきました。結局、30日入院しました。


入院治療中の熊野さん




◆私の人生って、何なの!?◆


小澤

術後の状態が落ち着いてきたら、何か考える余裕が出てきましたか?


熊野さん

いや、とにかく受け入れられなかったです。何で私がガンになるんだろう? 美と健康をずっと仕事にしてきた私がガンになった・・・受け入れられませんでした。


しかもやっと離婚が成立した直後・・・何なのよ、これ!? 私、離婚するのに7年半かかっていました。旦那さんから、モラハラ受けていました。


小澤

ご主人とはどんな出会いだったのですか?


熊野さん

ふつうの恋愛でした。当時、私は残業がきつい仕事に就いていました。そのせいか不正出血がひどく入院するほどでした。その仕事を辞めて、市役所でアルバイトを始めました。そのときに出会った人です。6~7年付き合って、30歳の時に結婚しました。最初の1年は優しかったのですが・・・


旦那、実は競馬、競輪が凄かったんです。やっているのは知っていましたが、そこまでとは知りませんでした。結婚して半年くらいは給料を入れてくれたのですが、建てた家のローンだけは払って残りは自分で使い、生活費はありませんでした。


小澤

熊野さんは収入あったのですか?


熊野さん

私が仕事して稼ぎがあるから何とかなると思っていたのでしょうね。どんな家庭でも何かしらあるだろうし、自分が選んだ人なのでと、まあ我慢しました。


小澤

差し支えないようでしたら、具体的にどんなモラハラだったのですか?


熊野さん

危害は加えないのですよ。暴力は振るわないのですが、大声を出したり、メールにすぐ返信しないと立て続けに30通も送ってきたりする。だから私は、「ああ、怒ってる」と手が震える。恐怖でビクビクです。でも自分では異常だと思わなかった。その様子を見た知人がおかしいと言ってくれて、やっと自覚したしだいです。何に付け、悪いのは私というのを言い続けられました。ほんと怖くて生きた心地がしませんでした。


小澤

その恐怖の結婚生活の支えになったのは何ですか?


熊野さん

仕事ですね。結婚と同時にエステとメイクの仕事を始めました。仕事はすごく楽しかったのですが、生活費を稼がなくてはならないので必死でした。舅の世話もしていて、毎晩きっちり6時に夕ごはんを食べる人でしたから、仕事をしている9時から5時が自分でいられる時間でした。


小澤

同居でしたか。


熊野さん

旦那にちょっとでも舅の愚痴を口にしようものなら、実の父親を家から追い出さんばかりの剣幕になる。異常でした。私からは水くさい父子に見えました。


小澤

その結婚生活は何年続いたのですか?


熊野さん

9年です。そして遂に逃げました。なぜ出る決心をしたかというと、そんなふうに堪え忍んできたのに、ある日、「仕事辞めたい。家のローン払ってくれるか」と旦那が言い出したんですよ。


小澤

その言葉で、気持ちが切れた?


熊野さん

プッツンです。全部背負わされる・・・もうムリ!と思いました。この時はじめて、事情を実家の親、妹、弟に打ち明けました。


小澤

ご家族は何と?


熊野さん

「すぐ帰っておいで!」でした。逃げ出す日を決め、旦那を送り出すとゴミ袋に衣類を詰め、脱出しました。朝逃げでした。(笑)


小澤

決死の脱出劇ですね。


熊野さん

でも簡単には離婚届にハンコを押してくれませんでした。調停にかけるものの、旦那は別れたくないの一点張り。危害はなかったので、申し立てとしては不十分という判断で離婚は認められませんでした。裁判の費用もなかったので、とりあえず別居を続けました。その間、事業は順調で東京にもサロンを開業しました。


小澤

法的な措置をとったものの、その時点では離婚は成立しなかった。


熊野さん

朝逃げ別居から7年半経った2016年10月、再度の調停で離婚が認定されました。


小澤

晴れて自由の身を手に入れた。でも、待ってくださいよ。2016年10月ということは、その1ヶ月後にガンが見つかった!?


熊野さん

離婚が成立した時、空の色がちがって見えました。だからなおさら、ガンを告げられ出てきた言葉は「私の人生って、何なの!?」でした。


この体験がアピアランスケア協会設立のきっかけに




◆いのちのアイスクリーム◆


小澤

美と健康の事業を支えにし、やっとの思いで離婚を成立させた暁に待っていたのは深刻な病状。とてもじゃないが受け入れることができなかった。それでもまた立ち上がって歩き出したのは、何が起点になったのですか?


熊野さん

迫り来る死を前にして、とりあえずやったことは、食べたくないのだけど無理しても食べることでした。ご飯を配膳されるのが地獄でしたね。ご飯が怖かった。


小澤

本能として食べようとするのだけれど、それが怖くてつらい?


熊野さん

つらかったです。テレビを見るのも嫌でした。テレビつけるとグルメ番組ばっかりやっているので、見ませんでした。


膿の処置をして熱が下がりだして、やっと食べたい気持ちになったのがアイスクリームでした。その食べたい気持ちが自然と湧いたことが、すごく嬉しかった。


小澤

食べたい気持ちが出たことに勇気づけられたのですね。


熊野さん

病院の売店で買ったアイスクリーム、半分くらいでもと口にしたら1個食べ切れた。それで、「私、大丈夫かも!」と思えたんです。ガン告知後、はじめて、自分がガン患者であることを認めた瞬間でした。


小澤

ようやくガンになったという事実を受け入れ、スタートラインに立てたという感じですかね。


熊野さん

それまでは、同じ病棟のガン患者さんと喋ることができなかった。自分がガンであることを拒んでいたから。


小澤

私はあなた達と同じカテゴリーの人間じゃない。そうであってほしくない。


熊野さん

ガン患者のレッテルをでかでかと貼られているのに、自分はちがう!ちがう!ちがってほしい・・・目を塞いでいた。後から振り返ると、その受け入れられないときが、いちばんしんどかったです。


小澤

怖いからと目を背けても、自分の細胞の一部がガンになっているのだから遠ざけようにも遠ざけられない。


熊野さん

自分がガンであることを認めてからは、他の患者さんと話せるようになりました。私より5つ年上の女性と~その方は後にお亡くなりになられましたが~お互いの状況を話していたら、こう言われました。「いいやん、手術できたんやから」 その言葉を聞いたとき、ハンマーで頭を殴られたようでした。手術できたってことは、ほんとありがたいことなんだ・・・そこから、心を入れかえました。


小澤

同じ病の方が、熊野さんの立ち位置を教えてくれたのですね。


熊野さん

死が迫っているかもしれないけど、ちゃんと自分と向き合わなければいけないと思いました。ストップしていたSNSを再開し、「ある日突然、ガン患者になりました」という記事を投稿しました。自分の顔写真はアップできなかったですけどね。


「誰にでも突然、私のような事が起こりえるのですよ」


自分が47歳の若さでガンになるとは想像もしなかった。でも実際入院してみたら、私より若いガン患者が少なくない。「何か伝えなきゃいけない!」 漠然とですが思いました。それでとりあえず、SNSで今の気持ちを素直に伝えることにしました。


小澤

今の自分にできることは、自分の身に起きたことを伝えることだと。


熊野さん

投稿したら反響がすごかった。 「実は私もガンサバイバーです・・・」「身内が・・・」「友だちが・・・」 いっぱいコメントが返ってきました。あ~、2人に1人といわれるけど本当なんだなぁ。痛感しました。多くの方からの応援メッセージも励みになりました。


小澤

スタートラインに立った熊野さんに、多くのサポーターからエールが送られたのですね。


熊野さん

やっと立ち上がることができたら、第二の告知が待っていました。病理検査の結果は退院後に知らされることになっていました。初外来の1月19日、診察室に入るとドクターはしかめっ面をしていました。開口一番、「子宮内膜間質肉腫」と言われました。200万人に1人の希少ガン、再発率は高い、確立された治療法はない。「有効な抗ガン剤はないが、同じ科の医師と検討して、6クールの抗ガン剤治療がよいだろうという結論になりました」と告げられました。


小澤

熊野さんはその説明を聞いて、どう思われたのですか?


熊野さん

なぜかわかりませんが、私は運があると思っていたんです。緊急入院でセカンドオピニオンなんか受けるどころじゃない状況にもかかわらず、ダメもとで電話した知り合いの看護師さんと繋がってアドバイスもらえ、腕の良いドクターに手術してもらえた。私はツイテルから、抗ガン剤治療も二つ返事で承諾しました。


小澤

手術も抗ガン剤も治療を検討する間が無かったですね。


熊野さん

勝手に進んでいきました。でも、抗ガン剤を想定して塩井さんにヘアカットしてもらいおかっぱにしていました。ガンの先輩方に聞いて準備していました。売店でケア帽子とネットも買って用意しました。


小澤

最低限の準備はして治療に臨んだ。


熊野さん

でも怖かったですね。治療前日、1人で居るのは心細いので4人部屋に入院しました。同室の80歳近い患者さんに不安な胸の内を明かすと、「いける、いける。私、20何回やってるから」と豪語されました。(笑) 「このお歳の方でも20回やってるなら、大丈夫かな」と思いました。(笑)


小澤

同室に強者がいましたね。(笑)


熊野さん

1回目をやって2週間後、物の見事に髪が抜けました。髪を洗っていたらモッサ~っと浮くように頭から外れて、「うゎ~、お母~さん!!!」て叫びました。そういう時って、無意識に「お母~さん」って呼ぶんですね。(笑)母も一大事とばかり飛んできました。その時の母の顔・・・すごい形相でした。その顔見て、こんな心配させてしまって・・・忘れられません。


塩井さんにカットしてもらった!




◆自分を取り戻して生きる勇気を持ってもらいたい!◆


小澤

6回の抗ガン剤を経験しながら、何か心境の変化はありましたか?


熊野さん

美と健康のプロという自負がありましたから、受けて立とうという気持ちになりました。自分の体で実験してやろうという心構えになったので、乗り切れたのだと思います。


小澤

実験の目的は何だったのですか?


熊野さん

治療が終わって克服できたら、同じようにガン患者になって泣いている人に何かしてあげられるのじゃないかと考えていました。そこに私の命を生きる意義があるのじゃないかと。そしてそれを生きる糧にしていました。


小澤

今のアピアランスケアを具体的に立案していたわけではないが、漠然とながらもイメージはしていたのですね。このガンの経験はそのためにしているのだと。


熊野さん

そういうことですね。だから、シミが出てきたときも、キターっと思い自分の知識で観察、分析しました。


小澤

ということは、熊野さんは治ることをゴールにするのではなく、治った先に焦点を当てていたのですね。


熊野さん

もし生かされて時間を与えられるなら、誰かのために役立てたいと思いました。だから、生きれたのだと思います。ドクターには1~2年で再発しますと言われ検査は続けていますが、3年経ちました。今のところ再発はしていませんが、まあ、どうなるかわかりません。(笑) 何を食べたらいいかと薬膳も習いましたが、すごく難しくて厳しい指導だったので打ちひしがれ帰ってきました。(笑)


小澤

食事は意識しようとされたのですね。


熊野さん

でも術後に食べられず苦しい思いをしたので、食べられるということがありがたかった、うれしかった。なので、食べ物に制限をかけるのはやめました。(笑) だっていつ死ぬかわかんない。楽しいことしなきゃ損だもん。(笑)


それで、「生きてるだけで丸儲け!どんなときも人生パラダイス!」っていうのをやってるんです。(FM千里、動画配信) そりゃ、人生たいへんなこともありますよ。東京のサロン閉めるときなんか、スッカラカンでしたから。(笑)


小澤

ガンの引き金になったと思われる結婚生活、別居、離婚調停も、ガン同様に役に立っているのではないかと推測しますが、いかがですか?


熊野さん

今はね、旦那とのことも感謝しています。アピアランスケア協会を設立し活動を始めると、いろんな境遇の人が来られます。でも私は、結婚生活の絶望と200万人に1人の治す方法のない希少ガンの絶望を経験している人間です。そういう私ならではの関わり方ができる。そういう経験をした私が灯になることがある。


小澤

「アピアランスケア」言葉通りだと外見のことですが、結局、内面のケアですよね。


熊野さん

そうなんです。アピアランスを切り口にして、自分を取り戻して生きる勇気を持ってもらえればと活動しています。


小澤

ご協力ありがとうございました。








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【編集長感想】


浪速の人生劇場のような身の上話を語ってくださった熊野さんは、破天荒で厳しいお母さんとのエピソードも聞かせてくれました。


「あんたは生まれたときから運がない!」・・・そんな言葉を浴びせる母は、世界で一番、私を傷つける人でした。


笑いながら話す熊野さんの心には傷痕がいっぱいあるのでしょうね。でも、その傷の数と深さの分だけ、人に親身になれるのです。









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